成人発達理論:人は何歳になっても成長し続けることができる
はじめに
SECURE HOMEのモットーは、『すべての人に安全基地を』です。
本来の自分の在り方に気づき、その可能性を最大限に発揮していくための『心の拠り所』となりたい。そんな想いを込めています。言い換えれば、すべての人の心のインフラ整備をすることです。
自身の在り方への信頼と自分を取り巻く周囲への信頼を基盤として、自分らしく主体的に人生を切り開いてく人が一人でも多くなる社会に貢献したいという願いです。
それを体現すべく、SECURE HOMEでは、2つの学習術的な理論を指針にサービス設計を行っております。
一つは『愛着理論』、もう一つは『成人発達理論』と呼ばれるものです。
この記事では、『成人発達理論』についてお話しさせていただきます。
以下、愛着理論についての記事も合わせてご覧ください。
本題へ進む前に
【愛着理論:幸せに生きやすい人生の土台とは?】では、愛着や安全基地の存在について解説し、それらが、自分らしく主体的な生き方に必要不可欠であることをお伝えさせていただきました。
まずは、心の拠り所を持ち、本人にとっての安心と安全を感じて土台を固めることが重要であるとSECURE HOMEは考えています。
そして、自らを変革し、現実や世界の捉え方に変化を起こすためには、実際の選択と行動もまた不可欠です。
どちらか一方だけではなく、両者が適切に調和して初めて私たちが目指す、自分らしく主体的な姿に変容していくことができると私たちは考えます。
大人になったら、もう成長の伸び代はないと思われがちですが、そんなことは決してありません。
正しい理解と適切なアプローチによって、自らの行動に変化を起こすことができる。そんな自信と期待を与えてくれる内容だと思います。
ぜひ最後まで読んでいただけますと幸いです。
成人発達理論とは?
成人発達理論とは、ハーバード大学教育大学院のロバート・キーガン教授が中心となって提唱している理論で、人としての知性の発達のプロセスとメカニズムを明らかにしようとした発達心理学という学術分野です。
この理論は、『人は成人後も、世界の捉え方や知性を発達させ、成長し続けることができる』という考え方を基盤としています。
この理論における成長とは、単純な知識やスキル、能力による発達ではなく、それらを習得したり、効果的に発揮するといった根幹部分の成長と発達を指しています。
知識やスキルを武器を操る人の器や人格部分の発達に主眼が置かれています。
PCに例えるならば、専門知識やスキルがアプリが担い、それを支える器や人格をOSとして理解することができます。
成人発達理論では、人が自らを変革しようと思った時、個別具体的な能力やスキルを伸ばそうとすることは、適切な解決策となる場合もありますが、本人にとってより抜本的な変革を必要としている場合には、その効力に限界があることを示しています。
つまり、特定のことについて本人が悩ませ続けられている時には、アプリではなく、OS本体のアップデートが必要であるということを唱えています。
そして、このOSである人の器は、何歳になっても成長と発達をし続けることができることを提唱しています。
変わりたくても変われないのには理由がある
新たなことに挑戦して、自分自身を変えたいという願いはどんな人も持っているものです。
その願いを現実のものにしようと、それに必要な知識やスキル、能力を身につけようと努力したり、問題だと感じることにたいして、表面上の原因を解決しようとすることが多くのケースです。
しかしながら、実に多くの人たちが直面するのは、何度やっても上手くいかなかったり、どんな方法を試しても解決されない現実です。
心から変化を望んで向き合っているのにも関わらず、それが現実にならないのは一体なぜでしょうか?
本当の"原因"を分かっていない
成人発達理論では、あらゆる人にとって直面する課題の多くは、知識やスキル、能力に対する単純なアプローチでは対応できないものであるということを示しています。
言い換えれば、課題感や問題を引き起こす本当の原因を見誤っているということです。
このことこそが、望まれない現実を引き起こす最大の要因であるとしています。
以下の例を見てみましょう。
プロダクトマネージャーとして働く女性Aさん
課題
部署内で問題の報告があったり、障害に直面したりする度に不機嫌になり、ピリピリとした空気を出してしまう。その結果、チーム内の人間関係に支障をきたすことがしばしばある。
目標
セルフマネジメントを身につけ、自分の感情に適切に対処すること。
解決策(具体的な行動)
- セルフマネジメント研修を受講する
- 職場での人間関係に個人的な苛立ちを持ち込まないように心がける
- 感情のコントロールが効かなくなりそうになったら同僚に注意してもらう
上記の例を見ると、課題に対していかにも適切そうな解決策を講じているように見えますが、結果としてAさんは、課題を解決すことはできずに、引き続き悩ませ続けられる結末となっていました。
その理由は、【感情をコントロールできなくなってしまう本当の原因】を見落としていたからです。
よくよく深堀ってみると以下のような事実が浮かび上がってきました。
目標を阻害している行動→
- 熱く、感情的になりやすい
- 周囲に助けを求めない
- 依頼に対してNOと言わない
- 常に120%で働く
無自覚に満たしたいと思っていること→
- いかなる犠牲を払っても周囲を裏切りたくない
- いざという時に頼りになる存在でいたい
- いつも完璧なビジネスパーソンでいたい
- 周囲に弱みは見せないでいたい
固定観念や思い込み
- 期待を裏切ると、メンバーやチームから見放されてしまう
- 限界を出し尽くせない自分は価値がない
- Noということは、期待を裏切ることである
- 自分はいかなる時でも、冷静でいなければならない
- 頼られなければ地位は失われるものだ
このようにして観察してみると、Aさんの課題を生み出し続けている根本的な原因が、本人の固定観念や思い込みと深く紐づいていることがお分かりいただけると思います。
実際にAさんがやっていたことは、課題解決に必要な行動ではなく、本人が持つ強力な固定観念や思い込みを守るための行動をしていたということです。
その結果、本人にとって望まれない現実を、Aさん本人が生み出し続けていたということです。
このことは、自分でも気づいていない強力な固定観念や思い込みから生じる思考と行動様式のパターンを手放し、自分自身の器をアップデートする必要があることを示しています。
自分を変えるための方法
では、どのようにして自分を変えていけるのでしょうか?
成人発達理論では、自己変革のための重要な点として以下を示しています。
根本原因をあぶり出すための『免疫マップ』
上記ポイントの1点目について、本当の原因を特定するとは、自分自身への自己理解を深めることに他なりません。
成人発達理論では、達成を阻んでいる根本原因は何かをあぶり出し、本当に必要な改善は何かを探求するツールとして『免疫マップ』と呼ばれるものがあります。
具体例で扱ったAさんについても、この免疫マップによって深掘りを行っています。
免疫マップには、以下4つの重要な要素から成ります。
1. 改善目標
本人が目指す姿に対して、改善が必要なこと。
Aさんの場合:セルフマネジメントを身につけ、自分の感情に適切に対処すること。
2. 阻害行動
改善目標を達成しようしと行動しようとする意志はあるものの、目標を阻んでしまうような実際に取っている行動。
Aさんの場合:熱く、感情的になりやすい/周囲に助けを求めない/依頼に対してNOと言わない/常に120%で働く
3. 裏の目標
思いとは裏腹に実際に取ってしまう阻害行動を駆り立てている『動機』のこと。本人にとっては、改善目標を達成することよりも、阻害行動の奥にある欲求(うまみ)を満たすことの方が重要であると無自覚に働いている。
Aさんの場合:いかなる犠牲を払っても周囲を裏切りたくない/いざという時に頼りになる存在でいたい/いつも完璧なビジネスパーソンでいたい/周囲に弱みは見せないでいたい
4. 強力な固定観念
裏の目標のさらに奥にある本人が独自にもつ思い込み(=信念)のこと。本人は、この思い込みに無自覚であることがほとんど。
Aさんの場合:期待を裏切ると、メンバーやチームから見放されてしまう/限界を出し尽くせない自分は価値がない/NOということは、期待を裏切ることである/自分はいかなる時でも、冷静でいなければならない/頼られなければ地位は失われるものだ
上記4つの重要項目について図解で表したものが以下です。
課題を生み出している本当の原因を明確に特定することは、自分自身を変えていくために必要不可欠です。
特に、無自覚に満たそうとしている裏の目標とそれをつくり出している固定観念や思い込みを理解することが重要です。
これまで無自覚だった自分自身の側面に気づいて、初めて自己変革の第一歩を踏み出せます。
自分自身についてわかって、それが理解できたら、これまでの自分の思考や行動のパターンに変化を起こしていくことが可能になります。
おわりに
大人の学習と成長と聞くと、知識を広げることや新たなスキルを身につけることのように思われがちですが、実際はアプリを伸ばすことだけに限らず、その土台となるOS、すなわち私たちの器のアップデートすることでもあります。
それは、自己理解によって客観的に自分を知り、自身の新しい思考と行動のパターンへと変化させていくことです。
そして、客観的に自分を理解することはメタ認知することであり、SECURE HOMEが基盤とするもう一つの理論である愛着とも通じるものがあります。
愛着理論と成人発達理論は、『自己内省』と『主体的な行動』を促進するものであり、私たちが自分らしく活き活きと主体的に生きることへの叡智を授けてくれるはずです。
私たちのサービスを通して、一人でも多くの人がその可能性を発揮できるよう支援を続けていきたいと思っております。
最後までお読みいただいた方、本当にありがとうございました。
参考図書
ロバート・キーガン,リサ・ラスコウ・レイヒー. なぜ人と組織は変われないのか ハーバード流 自己変革の理論と実践
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